スケープゴート・アンプリファーの読解、あるいは曲解

D

スケープゴート・アンプリファー
scapegoat:身代わり
amplifier:拡大する人[物]、増幅器

自身(ボカロP)の考えを、身代わりに代弁して増幅して語ってくれる存在としてのボカロ
という意味だろうか?

歌詞

この歌詞の解釈として、どういった視点から発せられている言葉であるか、いくつかのパターンが考えられると思う。
以下のように整理して考える。
X−1:歌い手批判
X−2:メジャー化批判
X−3:視聴者批判


「自分でもこの解釈はこじつけ感がしている」というものには(こじつけ感)をつけて表現。

歌詞1

やぁやぁみなさん ご機嫌いかがですか
はなんか 持ち上げられてます
見慣れない人が ちやほやしてくるのも
慣れてきたけど 複雑な気持ちになります

解釈1−1(歌ってみた批判)

みなさん:この動画を観ている人
私:作詞者自身、もしくはボカロそのもの(ミク)
持ち上げられてます・ちやほやしてくる:ニコニコ動画内での再生数が底上げされ、当初では考えられなかったほどの伸び方をするようになってきた
見慣れない人:歌ってみたの歌い手
複雑な気持ちになります:ボカロの楽曲は、(少なくともオリジンの動画は)ボカロのために製作されているのに、歌ってみたの歌い手のための仮歌扱いになってるんじゃないか

解釈2−1(メジャー化批判)

みなさん:この動画を観ている人
私:作詞者自身、もしくはボカロそのもの(ミク)
持ち上げられてます・ちやほやしてくる:企業に起用されたり、種々のメジャーなイベントに登場したりするようになってきた
見慣れない人:ボカロ黎明期にはボカロなんて全く知らなかったが、最近になってボカロを知った人
複雑な気持ちになります:当初の小さな箱庭感、サブカル感が崩壊し、メジャーになることにより避けられない商業主義的、最大公約数的志向への偏重を危惧してしまう

歌詞2

新しいオモチャには 群がりすぐ飽きるでしょう?
お気軽に「神」呼ばわりね バカにしないで

解釈1−2(歌ってみた批判)

新しいオモチャ:ボカロの新曲
群がりすぐ飽きる:ボカロ新曲の歌ってみた動画をすぐにアップして乗ってきて、本家以上、あるいは同等の名声を得たりして、ランキングを席巻する(を繰り返す)
「神」呼ばわり:一応は本家を褒める歌い手のエクスキューズ
バカにしないで:曲作ったらタダ乗りしてくるとかナメてんのか

解釈2−2(メジャー化批判)

新しいオモチャ:世間におけるボカロ自身
群がりすぐ飽きる:流行りとして消費する
「神」呼ばわり:解釈1−2における「持ち上げられてます」と同様
バカにしないで:消費されてたまるか、という気持ち

歌詞3

本当は私の事など 興味なんてないくせに
話題合わすためだけに 聞き流しているくせに
「どうせ今が旬」なんて 値踏みばかりするくせに
都合悪い事あれば 人のせいにするくせに

解釈1−3(歌ってみた批判)

本当は私の事など 興味なんてないくせに:私(作者もしくはボカロP全般)の曲を別に好きじゃないけど歌っている(伸びてるやつとりあえず歌っとけば、人気出るだろうという意図を疑っている)
話題合わすためだけに 聞き流しているくせに:歌えるようになる程度に聴いているだけで、別に好きで聴いてるわけじゃない
「どうせ今が旬」なんて 値踏みばかりするくせに:歌い手は内心そう思っているのだろう

解釈2−3(メジャー化批判)

本当は私の事など 興味なんてないくせに:流行とされたからそう扱い始めただけで、本当にいいと思っているのか

解釈3−3(ニコニコ視聴者批判)

話題合わすためだけに 聞き流しているくせに:他のボカロと比べる目的、あるいは批判する目的で聴いてるだけ
「どうせ今が旬」なんて 値踏みばかりするくせに:「〜〜終わったな」などと評論家気取りで語ることがもはや目的になっている

補足

都合悪いことあれば〜 はおそらく3の視聴者批判。だが視聴者が「ボカロもしくはボカロPのせいにしている」事象に心当たりがないので保留した。
解釈1−3もしくは2−3で、解釈してない歌詞がある部分は、3−3との混合批判であると受け取れば一本の筋を通せるが、それでも2−3は弱い。
1−Xの歌い手批判が本筋だと俺は考えている。

歌詞4

あなた知り合いも 歌える感じだけど
をどうぞ ご利用下さい
しがらみばかりの 生活投げ捨てたら
お望みどおり 一人きり自由になれます

解釈1−4(歌い手批判)

あなた:ボカロP
知り合いも 歌える感じ:歌ってみたをしてる知り合いがいるでしょう
私:ボーカロイド
ご利用ください:ボカロを用いて楽曲を製作してください
しがらみ:歌い手や周りのPとのトラブル、お互いの顔色うかがい
自由:(歌い手や周りのPとの)しがらみから解放され、すべてのパートを自分で製作して気軽に楽曲を作り上げて動画をアップロードできる(「曲はあるけど周りにボーカルがいない、それでも楽曲を完成させる」は本来、ボーカロイドに期待された大きな役割の一つだった)

歌詞5

「誰もに愛される」 それはつまり誰からも
愛されてない事でしょう? とんだ茶番ね

解釈ALL−5

これはどんな視点でも共通で、自分をちやほやしてくるけど、それってただちやほやしてるだけ(真に好きじゃないだろう)ってことで解釈可能
ただ、どの視点からでも、主張の補強にはあまり寄与しないと思われる。

歌詞6

自分の価値観以外は 認めようとしないくせに
別に褒めてもらえれば こだわりなんて無いくせに
去年好きだった歌を もう忘れているくせに
明日 私が突然 いなくなってもいいくせに

解釈1−6(歌い手批判)

自分の価値観以外は 認めようとしないくせに:自分が歌ったから元曲も評価されたとさえ思ってるんじゃないの(ややこじつけ感)
別に褒めてもらえれば こだわりなんて無いくせに:歌い手は、再生数が伸びれば何でもいいと思っている
去年好きだった歌を もう忘れているくせに:ちょっとは好きで歌ったとしても、その曲のこともすぐ忘れてしまうんじゃないの(その程度の薄い愛着で好きとか言って歌っているのだろうという批判)
明日 私が突然 いなくなってもいいくせに:歌い手があげた動画は、もう歌い手に主権があるから、元動画が消えてしまっても別に構わないと思ってるんだろう。

解釈2−6(メジャー化批判)

無理筋か?

解釈3−6(視聴者批判)

自分の価値観以外は 認めようとしないくせに:視聴者は、自分の好きな曲以外は(普遍的に)クソだと思っている
別に褒めてもらえれば こだわりなんて無いくせに:これは視聴者の行動ではないので当てはめられない
去年好きだった歌を もう忘れているくせに:「すぐ飽きるだろ」ということ
明日 私が突然 いなくなってもいいくせに:マイリス何万とかになってるが、そんなPも、いなくなったらいなくなったで、まあしょうがないか、ぐらいで済ませるだろうということ

補足

「明日 私が突然 いなくなってもいいくせに」という部分は「ボカロがなくなっても、歌い手がいるから別に困らないよね」というボカロ視点のメッセージとも受け取れる。というか、そう読みとるのが非常に自然。
とすると、全体を「ボカロ視点」からのみ読みとる解釈も有力なのかもしれない。

歌詞7

無償の愛をくれる人がいるのも知ってる
嫉妬も虚栄も恥じらいも手放せないの

解釈ALL−7

これは自己批判のように思える。
本当にボカロの曲が好きな視聴者がいることは承知しているが、上記のような邪推をしてしまう感情からも逃れられない、という意ではないか。

歌詞8

こうして何も言わなけりゃ 見向きすらしないくせに
うわべばかりの笑顔を 見抜いてなんかいないくせに
安い孤独埋まるなら 誰でも同じなくせに
そんな気持ち抱えてる 私を知っているくせに

解釈1−8(歌い手批判)

こうして何も言わなけりゃ 見向きすらしないくせに:こうして批判を加えなければ、そんな実情がさもないかのように平然とこれからも同じ営みを繰り返していくに違いない
うわべばかりの笑顔を 見抜いてなんかいないくせに:P側も歌い手にはニコニコしてることが多いが、その裏にある猜疑心を知りもしないだろう
安い孤独埋まるなら 誰でも同じなくせに:人気取りができるなら、誰でも利用するだろう
そんな気持ち抱えてる 私を知っているくせに :「うわべばかりの笑顔を 見抜いてなんかいないくせに」と矛盾する。よって、ここだけボカロ視点ではないか? あるいは、「ちょっと考えたら分かるだろう」という意味か?

まとめ

この楽曲の歌詞は「歌い手批判」であるという線が最も有力だと俺は考えているが、その他に対する批判、あるいは自己分析、述懐なども入り混じっている可能性が高い。
あるいは、ボカロ視点で、人間たちの営みを憂いているという解釈ができる部分もある。しかし、それだけでは済まない部分も散見される。
例えば「こうして何も言わなけりゃ 見向きすらしないくせに」は、別にミクなどのボカロは、こういう歌詞の楽曲が世に出なくても、見向きされているので、理屈が合わない。