ゴキブリ考察

 ソイソース醤油という男は、次のようなことを言った。
「現実では女にモテないし、女とリア充のイチャつきを見せつけられてきたし、女に蔑まれてもきた。だからネットに逃げた。昔は、ネットにはそういうやつらがたくさんいた。あらゆるコミュニティは男臭くて、そこで好き放題のことを言ったりして楽しんできた。
 ネットは、いわば自分たちのような子供の遊び場、公園だった。
 でも、だんだんと時間が経つにつれ、その公園に、変な中学生や高校生の男女が遊びに来るようになった。そいつらは酒を飲んだりイチャついたりする。ここにも奴らが来るようになってしまった。
 時々、中高生から一緒に遊ばないかと誘われることもあった。魔がさして、その誘いに応じてしまったりした。あいつらから逃げたかったから子供同士で公園で遊んでいたのに、一緒に遊んでいた他のやつらに申し訳ないという気持ちが強くあった。いまだに中高生と遊び続けているやつもいるけど、自分は耐えきれなくなった」
 最初は、本気かよ、と思っていたけど、話を聞くにつれ、どうやら本気らしいと分かり、馬鹿馬鹿しい考え方だと思っていたけど、納得できるようになってきた。彼らの女性に対する憎しみ、リア充に対する憎しみは、童貞歴が長かった俺にだって十分理解できるものだった。そういった精神はさっさと卒業するべきなのだし、俺らぐらいの年齢を重ねた者は、世に出れば自然と卒業していくものだ。しかし、そうした同志が集まり、結束して、永久凍土のようにカチカチの思想として凝り固まってしまうのも無理はないし、その氷を溶かすような熱風は全くと言っていいほど吹いてこない。
 それはやはり、女と男の考えの非対称性が生み出したものだと思う。仮にそうでなかったとしても、彼女らは彼らをあまりにも迫害しすぎた。そんなつもりは全くないのかもしれないし、ネットにおいてごく少数でしかない荒らしの活動が目立つように、糞女のやることなすこと心ないことを我々は見過ぎていたのかもしれないが、現実として、憎しみしか残らなかった者がいる。
 彼らのカミングアウトに賛同する者(便乗して加勢する者も含む)が少なからずいることからも、この思想は根深い。彼らはその思想、経歴からしても、ちょっとやそっとのことではもうリア充には返り咲けないだろうし、むしろリア充の足を引っ張ろうとするし、自分たちの中から離反する者を決して許さない。その内情はさながら警察国家のようでもある。リア充諸氏からすれば彼らはネットの負の遺産みたいなものだが、彼らからすればリア充や出会い厨は忌まわしい闖入者にほかならないのだろう。ネットにおいてこの両者は呉越同舟だが、もはやどっちかの人たちだけのものにはならないだろう。今後もこうした諍いは絶えないに違いない。