ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「たったひとつの冴えたやりかた」感想

 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアたったひとつの冴えたやりかた」を読了した。小説を読んだのは久しぶり。きっかけは、Wikipedia村山聖という夭折した棋士の記事を読んでいたら、好きな作家として挙げていて、そのリンクをたどってティプトリーの記事を読んだら、ものすごい人生を歩んでいて、死に方もすごかったので、興味が出たというところだ。
 それで読んでみたら、すごく面白かった。筋を要約すると、SF世界のヒロインの15歳の女の子が、エイリアンと友達になって、どうしようもなくなって、自己犠牲する話。この女の子が可愛い。冒頭で、団子っ鼻でどうのこうの、というちょっと芋っぽい見た目の説明があったが、俺の頭の中の劇場ではこの顔で上映されていた。

 この子は明晰で利発なのだが、大胆かつ宇宙オタで、誕生日プレゼントにもらった小型の宇宙船を、金持ちの親とか資産家に嫁いだ姉をあてにしてクレジットカード限度額までほぼフルに使って、長距離航空できるように大改造、宇宙の北の果ての基地まで旅行するというところから始まり、基地で行方不明になった隊員がいるという事件を聞いて、ちょっと探してみようかなんつって、果てをウロウロしてたら、メッセージを積んだ衛星みたいなんが飛んでるのを見つけて、捕まえて中を見てみたら、行方不明だったら奴らの音声でビンゴ、どうもエイリアンとファーストコンタクトしたらしいということが分かる。そんときに実は女の子はそのメッセージ衛星に同封されていたエイリアンに寄生されていたのだが、その寄生エイリアンがけっこういいやつで、好奇心から冒険に来た自分とちょっと似ているということで友情が生まれる。同封されてたのはエイリアンだけじゃなくてエイリアンの種族の種子も一緒に入ってて、実は人類やばかった。エイリアンの種子はそのエイリアンが作ったわけじゃなくて別のやつのしわざ。んでまあ種子除去して基地に衛星飛ばして自分たちは行方不明隊員の捜索をウキウキで再開。エイリアンは頭に寄生するタイプで、女の子の身体を使って喋ったりしてコミュニケーションする。やがて行方不明隊員を見つけたりしてなんやかんやあったけど、仲良しで人類との未来を楽しく語り合ってた二人だったのに、エイリアンが自分でも知らなかった性的衝動に目覚めて女の子を乗っ取ろうとして、でもそんなことしたくない、でもこのままだと女の子の脳を食い尽くして殺して種子を作ってしまう本能に抗えないし、宇宙船をオープンした種族に無慈悲に種子が襲いかかる爆弾になってしまうから、じゃあもう二人で犠牲は終わらせよっかっつってメッセージだけ基地に飛ばして太陽に突っ込んで死ぬ話。
 だいぶはしょったけど、感情的にはかなり悲哀な話だと感じるし、流れ的にも不可避の事態なのである。目頭が熱くなりますよ。「楽園追放」にちょっと似てるなと思ったが、こちらはハッピーエンドではないのでやるせない。本編では女の子の考えとか思ったことがガンガン書かれるんだが、それが鋭く頭いいし、さわやかだし、でもかなり歳相応に可愛らしいしで、相当魅せられる。金を使い込んだり無断で旅に出たりして悪いことをしてないわけじゃないが、それは好奇心ゆえの、まあ大人になったら笑い話もしくは武勇伝で済むような行動なんだが、不幸にも猫をも殺してしまったという感じがとてつもなく切ない。俺が最も強く感じたことは、若い才能が悪い巡り合わせのために、潰えてしまうことの悲しさだ。そういう点に感情を動かされるとは、歳を取ったなあ。もったいない、この子には前途があったはずなのに、という思いである。同様のことを感じる人もいると思うのだが、思うに、この感情の「地」には、不相応にもそういう才媛に自分を重ねて憐憫する気持ちが含まれているような気がする。歪みを伴っている感じだね。俺だけかもしれんが。どうも、才能ある者が、その者の主観は置いといて、スポイルされているようなシチュエーションをとても悲しく感じる。敗戦国の聡明な王子が捕虜になってしょうもないボケに殺されるとか、そういうのがつらい。まあ、この作品の場合は、本人にそういう無念さはないんだけど、勝手にこっちでこしらえて感じちゃうんよな。いやあ。
 まどマギもちょっと似てるかもな。自己犠牲というところで。自己犠牲が好きなのかなあ。でも自己犠牲、嫌いなはずなんだよな。巷の自己犠牲が安っぽすぎるからかなあ? 最初っから自己犠牲で構わんよみたいな精神構造してるやつが、そのとおりに自己犠牲しました、みたいなのが多いからだという気がしてきた。生きたくてしょうがないのに、前途あふれるのに、総合的に考えて、あるいはとっさの行動で、犠牲を選んでしまう、というぐらいの煮え切らない感じじゃないと、価値がないということか。あるいは、その演出を怠っていると思うから巷の自己犠牲には勃たないのか。ああ、そうかもな。だとすると俺は才能のスポイルが見たくてしょうがない奴じゃねえか。ギャーー! 趣味が悪い!!
 「たったひとつの冴えたやりかた」はティプトリーの代表作で、代表作ってことは一番おもしろいってことだろうから、他のやつはちょっと下がるのかもしれんが、とりあえずもう一冊、図書館で借りてみた。貧乏だから図書館を使っていこうと思ってね。「輝くもの天より堕ち」ってやつを借りたんだが、500か600ページもある。期限までにゆっくり読もうかね。いやー良作でしたよ。